
合同会社設立はひとりでできる:社員1名が代表社員まで兼ねる仕組み
合同会社は、社員(出資者)が1人いれば設立できます。会社法575条は、合同会社などの持分会社を設立するには「社員になろうとする者」が定款を作成し、その全員が署名または記名押印すると定めていて、人数の下限を置いていません。社名に「合同」と付くので複数人が要ると思われがちですが、これは会社の種類を表す言葉にすぎません。
ひとりで設立した合同会社では、1人が三つの立場を兼ねます。出資者としての「社員」、会社の業務を行う「業務執行社員」、会社を代表する「代表社員」です。会社法では、定款に別の定めがなければ社員が業務を執行し(590条)、業務を執行する社員が会社を代表する(599条)とされているので、社員が1人なら自然とすべてを兼ねる形になります。株式会社のように株主総会や取締役会を開く仕組みもありません。
手続きの面でも、株式会社との一番の違いは定款の認証です。法務省の「合同会社の設立手続について」には、合同会社の定款は公証人の認証を受ける必要がないと書かれています(2026年10月17日に確認)。ひとりで進める場合も、定款を作る、出資金を払い込む、本店所在地を管轄する法務局に登記を申請する、という順番は同じです。私の場合は、社員も代表社員も自分1人、金銭出資のみ、資本金100万円という形で設立しました。代表社員を定款で定めたため、就任承諾書は付けていません。
書類を自分で作る場合は、法務局が公開している合同会社設立登記申請書の様式と記載例を手元に置き、本や解説サイトの見本はその補助として使うのが確実です。社員が1人なら、定款に署名または記名押印するのも、払込みをするのも、申請書に名前を書くのも自分だけなので、ほかの人の書類や印鑑証明書を集めて回る手間はありません。その分、誤字や記載漏れに気づいてくれる人もいないので、提出前に一覧表と照らし合わせて見直す時間を取っておいてください。
- 社員:出資して会社の持分を持つ人(ひとりなら自分だけ)
- 業務執行社員:会社の業務を行う社員(定款で別に定めなければ社員全員)
- 代表社員:会社を代表する社員(登記には氏名と住所が載る)
- 定款は社員になる人が作り、署名または記名押印する(認証は不要)


合同会社設立をひとりでする費用:登録免許税6万円からの内訳
ひとりで合同会社を設立する場合も、法律で決まっている費用は人数によって変わりません。中心になるのは登記のときに納める登録免許税です。国税庁のNo.7191「登録免許税の税額表」では、合同会社の設立の登記は資本金の額の1000分の7で、それが6万円に満たないときは申請1件につき6万円とされています(令和8年4月1日現在の法令等。2026年10月17日に確認)。資本金がおよそ857万円以下なら6万円で、株式会社の最低額15万円より9万円低くなります。
定款に貼る収入印紙は、紙で作るかどうかで変わります。国税庁のNo.7141では、合同会社の設立のときに作成される定款の原本は1通4万円の印紙税の対象です。一方、定款をPDFなどの電子データ(電子定款)で作れば紙の文書ではないため印紙は要らない、というのが一般的な扱いです。合同会社は定款の認証が要らないので、株式会社でかかる公証人の手数料もありません。
このほか、会社の印鑑の作成代、代表社員個人の印鑑証明書の手数料(市区町村ごとに異なる)、登記後に取る登記事項証明書(書面請求で1通600円)などがかかります。私は定款をfreeeの会社設立サービスで作って電子定款にしたので、印紙代はかかっていません。私の場合は、登録免許税6万円に印鑑や証明書などを加えて、実費は約6万3千円でした。司法書士には頼んでいないので、報酬はかかっていません。費用の項目ごとの考え方は、子記事で詳しく解説しています。


ひとりの合同会社設立は完全オンライン申請もできる:法務省がすすめる理由
法務省は「一人会社の設立登記申請は完全オンライン申請がおすすめです!」というページを設けています。一人株式会社と一人合同会社を「一人会社」と呼び、公的個人認証サービスの電子証明書(マイナンバーカードに入っているもの)を取得すれば、申請書と添付書面のすべてに電子署名を付けられるので、添付書面を法務局へ別に持っていかずに設立の登記を完全にオンラインで申請できる、という案内です(2026年10月17日に確認)。
一人会社がすすめられているのは、署名する人が自分1人で済むからです。社員が複数いると、定款などにそれぞれの電子署名が必要になり、全員分の準備がそろわないと完全なオンライン申請になりません。ひとりで設立する合同会社なら、自分のマイナンバーカードと読み取りの環境、登記・供託オンライン申請システムを使う準備があれば足ります。システムの利用時間は平日8時30分から23時まで、休日は8時30分から18時まで(年末年始を除く)と案内されています。
ページには、申請書情報の作成から、添付書面情報の添付、電子署名、送信、到達・受付・納付のお知らせ、補正、手続終了までの流れが10段階で示されています。登録免許税も電子納付などで納めます。私はオンライン申請を使わず、書類を本店所在地を管轄する法務局の窓口に持参しました。そのため、ここは実体験ではなく法務省の案内にもとづく説明です。パソコンの操作に慣れているか、カードの読み取り環境がすでにあるかで、窓口とどちらが楽かは変わります。


出典:法務省:一人会社の設立登記申請は完全オンライン申請がおすすめです!
つまずきやすい所①:一人の社員が死亡したら合同会社はどうなるか
ひとりで合同会社を設立するとき、手続きの解説ではあまり触れられないのが、その1人の社員が亡くなった場合の扱いです。株式会社なら株式が相続されますが、合同会社の社員の地位は、定款に定めがなければ相続されません。会社法607条1項3号は、社員の「死亡」を退社の事由として定めています。
社員が1人しかいない合同会社で、その社員が退社すると、社員がいなくなります。会社法641条4号は「社員が欠けたこと」を持分会社の解散の事由としているため、何も手当てをしていなければ会社は解散し、清算に進むことになります。しかも、この理由で解散した場合の清算人は、会社法647条3項により、利害関係人や法務大臣の申立て、または職権で裁判所が選任するとされています。家族が事業を続けたいと思っても、手続きは簡単ではありません。
これに備えるのが会社法608条です。社員が死亡したときに相続人がその持分を承継する旨を定款で定めておけば、相続人は持分を承継した時点で社員になり、その分の定款変更もしたものとみなされます。相続人が複数いる場合は、権利を行使する人を1人決める必要があります。設立のときに使う定款の雛形にこの定めが入っているとは限らないので、ひとりで設立するなら、定款に承継の定めを入れるかどうかを一度は検討してください(条文は2026年10月17日にe-Gov法令検索で確認)。代表社員が変われば登記事項も変わるため、承継が起きたあとは変更の登記も必要です。
定款を自分で作るときは、雛形をそのまま使うのではなく、退社や相続について書かれた条文があるかどうかを読み返してみてください。承継の定めは設立後に定款を変更して加えることもできますが、社員が1人の間に何かあれば間に合いません。家族に事業を引き継ぐ考えがあるかどうかで、入れるべき内容も変わります。文言に迷う場合は、司法書士などの専門家に確認するのが安全です。


出典:e-Gov法令検索:会社法(607条・608条・641条・647条)
つまずきやすい所②:ひとりの合同会社でも社会保険の適用事業所になる
従業員がいないから社会保険は関係ない、と考えてしまうのも、ひとりで合同会社を設立したときにつまずきやすい点です。日本年金機構の「適用事業所と被保険者」では、厚生年金保険の適用事業所となるのは株式会社などの法人の事業所で、「事業主のみの場合を含む」と書かれています(2026年10月17日に確認)。合同会社も法人なので、社員が自分1人でも対象から外れるわけではありません。
同じページでは、適用事業所に常用的に使用される70歳未満の人は被保険者になり、ここでいう使用関係は、労務の対償として給与や賃金を受けているかどうかで判断すると説明されています。一人社長が会社から役員報酬を受け取る場合は、この点が関わってきます。報酬をまだ払わない時期の扱いや、届出の書類と期限は、管轄の年金事務所で確認するのが確実です。
個人事業主のときは国民健康保険と国民年金だったのに、法人にしたとたんに会社負担分も含めた保険料がかかる、という変化は、費用の比較で見落とされがちです。ひとりで設立するかどうかを決める段階で、設立の費用だけでなく、毎月かかる保険料も見込んでおいてください。


判断が必要な所①:一人社長の給料(役員報酬)はいくらにするか
一人社長が会社から受け取る給料は、従業員の給与ではなく役員報酬として扱われます。毎月好きな額を引き出せば会社の経費になる、というわけではありません。国税庁のNo.5211では、損金に算入できる役員給与の一つとして「定期同額給与」を挙げ、1か月以下の一定の期間ごとに支給し、その事業年度の各支給時期の額が同じものとしています(令和8年4月1日現在の法令等。2026年10月17日に確認)。
額を改定できる時期にも決まりがあり、原則として事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までに行う改定とされています。設立1期目は設立の日から事業年度が始まるため、設立後3か月以内に金額を決めておく、と説明されることが多い部分です。このほか、事前に税務署へ届け出る「事前確定届出給与」という方法もあります。
いくらにするかは、手順では答えが出ない判断です。報酬を高くすれば会社の利益は減りますが、個人の所得税・住民税と社会保険料は増えます。低くすれば会社に利益が残り、法人税がかかります。売上の見通し、生活費、社会保険料を並べて決めることになり、本を読むだけでは答えが出にくい項目です。迷う場合は税理士に相談してください。決め方の詳細は「合同会社設立 役員報酬」のテーマにまとめています。
設立の手続きは自分でできても、報酬の額は一度決めると原則としてその事業年度の間は変えにくいため、勢いで決めないことが大切です。設立前の段階で、月々いくら必要か、会社にいくら残したいかを大まかに試算しておくと、設立後3か月の期限に追われずに済みます。

出典:国税庁:No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
判断が必要な所②:「一人で合同会社はやめとけ」と言われる理由を確かめる
ひとりで合同会社を設立することについて調べると、「やめとけ」という言葉が出てきます。理由として挙げられるのは、主に設立したあとにかかり続ける費用です。法人住民税の均等割はその一つで、千葉市の「よくある質問」では、赤字で法人税の納付がない場合でも、市内に事務所を設けて活動していれば均等割の納付が必要で、年額5万円〜300万円の範囲で課税されると案内されています(2026年10月17日に確認)。これに都道府県の均等割も加わり、金額は自治体と資本金等の額、従業者数で変わります。
そのほか、先に挙げた社会保険料、法人税の申告と決算の作業、税理士に頼む場合はその報酬も、個人事業主のときにはなかった負担です。売上が小さいうちは、法人にしないほうが手元に残るお金が多い場合もあります。合同会社という形が株式会社ほど知られておらず、取引先に説明が要る場面がある、という指摘もあります。
一方で、合同会社には決算公告の義務がありません(会社法440条の公告義務は株式会社に対するもの)。業務執行社員には株式会社の取締役のような任期の定めもないため、ひとりで続ける限り重任の登記も要りません。「やめとけ」が当てはまるかどうかは、売上と利益の見込み、取引先の事情で変わるので、一律には言えません。メリットとデメリットの比べ方は「合同会社設立 メリット」のテーマで整理しています。


出典:千葉市:赤字のため法人税の納付がない場合でも、法人市民税の申告・納付は必要ですか。
まとめ:合同会社設立をひとりでする場合と、専門家に頼む場合を並べる
合同会社は社員1人でも設立でき、その1人が業務執行社員と代表社員を兼ねます。定款の認証は要らず、法定費用の中心は登録免許税で、資本金がおよそ857万円以下なら6万円です。電子定款なら紙の定款にかかる4万円の印紙も要りません。法務省は一人会社の設立登記を完全オンライン申請ですすめています。一方で、社員が1人だからこそ、死亡したときの承継を定款でどう定めるか、一人社長の給料と社会保険料をどう見込むかは、早めに考えておく必要があります。
自分で進める場合は、報酬がかからない代わりに、書類の作成、法務局とのやり取り、定款の中身の判断を自分で引き受けます。参考までに、金銭出資のみ・代表社員1名で窓口に申請した私の場合は、補正の連絡はなく約1週間で登記が完了しました。専門家に頼む場合は報酬がかかりますが、承継の定めや役員報酬など判断が必要な項目も相談できます。どちらが合うかは、事業の見通し、定款に入れたい内容、使える時間で変わるため、断定はできません。
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